【特集】KDDIのLTEネットワークは大丈夫なのか?【2】LTE通信障害の原因と対策に関する記者会見(後編) ( 2013-06-12 21:00:00 )
2013年6月10日にKDDI開催した「一連のLTE通信障害の原因と対策について」の記者会見のレポート後編は、具体的な対策、遂に公開されたLTEエリアカバー率などについてお届けする。
以下、会見での説明と、「※」にてAppComing編集部コメントを前編後編に分けてレポートする。
(質疑応答・囲み取材・広報メール配信などによる情報を含むものとする。)
【11】一連の通信障害対策に関する基本方針について、スマートフォン・4G(LTE)時代(常時接続・高データトラフィック、過渡的な負荷=スパイク)における「機能安全」、自動制御学会でいう「フェイルセーフ」の確立として、ソフト・ハード品質向上をベースに、運用品質向上・容量設計思想・指針の確立を行う。
※ フィーチャーフォン比30倍のデータトラフィック、スパイクの発生に耐えうるには、かなりのオーバーキャパシティで運用しない事には、再発するのではないかという懸念がある。
業界で最もLTEユーザ・トラフィックが多いNTTドコモは、旧来よりオーバースペックなインフラ環境を導入しているという話を聞くが、過渡的な過負荷・高負荷などへの対応には、平常時の安定運用インフラとは比べ物にならないコストが掛かるはずだが、そこは、資本により改善される可能性があるので妥当な投資をしていけば、耐性が向上するであろう。
人の問題においては、同様にNTTドコモは自社内、関連会社、取引先ともに質も量もダントツに優れているという話を聞くが、この点においては、一朝一夕、金銭だけでは解決しない問題だ。
そこを故障・人的ミスなどによる障害が起こるものとして被害を最小化する設計手法の「フェイルセーフ」を高めていくことは、非常に重要な選択であり、明示したことは評価すべき点であろう。
【12】推進体制について、「機能安全」「フェイルセーフ」を確立するために、社長自らを本部長とする全社横断的な体制となる「LTE基盤強化対策本部」を新設する。副本部長には、嶋谷取締役・石川取締役の両専務が就任するという。
【13】具体的な取り組みについては、短時間での復旧手順・体制の策定ならびに夜間休日の監視体制強化を障害翌日の4月28日から開始し、監視体制の強化・増員を5月24日に決定したものの、5月29日・30日の長時間にわたる障害が発生してしまった。
5月15日には、230億円の重要設備の分散収容化に向けた投資を決定したが、今回の障害により、設備増設の前倒しを6月2日に決定し、更に、70億円の上積みをした300億円とすることを6月10日に決定した。(約200億円がMMEに関する設備投資額となる。)
【14】スケジュールについては、概ね8月末までに主要な対策を終える。呼処理カード性能の向上について設定などで変更して6月末までに実施する計画だ。9月移行は、容量設計思想・指針の確立を踏まえ、年度末まで増強を図っていくとしている。
※ 【12】~【14】について、今回障害の発生原因となったMMEは、現時点で19台あるが、8月末に50台、9月末には58台とする具体的な数字を補足で発表した。
つまり、現在の3倍のキャパシティを用意することになるわけだが、平常時は問題が無い現状から、LTE利用者増に併せての増設をはるかに超える量=オーバーキャパシティとなるようなインフラ増強を行う事を決定したことは、基盤強化への本気度が伺え、先のハードウェア障害やMME片系ダウン、スパイクなどへの耐性を十分に高める事ができるはずだ。
主たる期間を8月末までと長めに取っているが、「機能安全」も考慮し、同時進行せずに1つずつ進め、また、負荷の少ないMMEから先行していくということで、29日・30日の2日連続での障害が、このスケジュールにも反映されていることになる。
あとは、これら増強時に、あらたなバグがの顕在化やハードウェア等の同時に発生しうる障害と、手順にない障害発生に伴う人的ミスが発生しないような増強実施が期待される。
【15】お客様へのお詫びについて、約款では24時間の利用ができない場合以外は、補償・返金措置が行われないが、今回は、一連の障害で利用できなかったユーザが納得しないであろう事から、一律700円(税抜)を請求額から減額する措置をとる事を決定した。 この700円という金額の算定根拠は、基本使用料・ISP利用料・LTEパケット定額料の3日分相当で、7月移行の請求で実施する。
※ 一連の障害に対するお詫びにより、一定の納得を得られるかは今後明らかになると思われるが、経営側としては、補償義務が無い中で、ユーザ寄りの判断をしていると思われ、好感が持てる。
「お詫び」は、3回の障害での重複も考慮した想定64万+10~20万契約(現在、ログから突き合わせ中。)に、735円(税込)を乗じた約4億7千万円~6億1千万円程度が、直接的な影響額となる。
決算書 http://www.kddi.com/corporate/ir/library/result/pdf/kddi_2013_c.pdf を確認すると、現預金額は、借入返済・社債償還により、2012年3月期1,741億9,100万円→2013年3月期872億8,800万円 と半減しているが、当期利益(2013年3月期)の2,386億400万円からすれば、「お詫び」だけならば0.25%程度とインパクトは無い。
300億円もの追加設備投資の償却またはリース料を考慮しても、当期利益に対して2%程度のコスト増とはなるが、今後のユーザ離れの抑制、ユーザ獲得の一助になるならば、新規獲得のインセンティブを増やす事よりも「お詫び」に投ずる方が妥当であり得策だろう。
設備投資そのものは、未来に起きうるリスクを早期に軽減する施策でしかなく、株主サイドに立っても、障害頻発やユーザの流出は、経営陣と共通の懸念事項となることから、必要措置と考えて寛容に見ると推察する。
続いて、障害関連ではなく、情報公開が待ち望まれていたLTEエリアカバー率についての説明が行われた。
【18】まず、モバイルネットワークの仕組みについての説明があり、LTEの主たる帯域は800MHz帯・10MHz幅・下り最大75Mbpsと、2.1GHz帯・5MHz幅・下り最大37.5Mbps(ごく一部が2.1GHz帯の10MHz幅・15MHz幅)で、一部1.5GHz帯とのトライバンドでLTEネットワークを構築しており、春モデルまでは2.1GHz帯がiPhone5で、その他がAndroidに割り当てられていたが、この夏モデルからAndroidはトライバンド対応となっている。
【19】LTEの実人口カバー率は、800MHz帯が3月末:96%・5月末97%と広域ながら、2.1GHzは、主たる5MHz幅が3月末:63%・5月末:71%であった事が明らかになった。(10MHz幅以上は3月末:14%・5月末:20%、15MHz幅は5月末:1%以下)来年3月末時点でも2.1GHz・5MHz幅は80%に留まる見通しだ。
【20】実人口カバー率の算出基準については、全国を500m四方に区分したメッシュのうち、サービスエリアに該当するメッシュに含まれる総人口に対する割合と、メッシュの一部をエリアカバーしている場合には、該当メッシュ人口✕メッシュ面積率にて算出している。
メッシュの20%面積しかカバーしていない場合は、メッシュ内の人口に20%を乗じた数をカバーしている人口として、厳しく算出している。
また、各事業者によって算出方法が異なり、数値の横並び(単純)比較には意味が無い。
※ ネット上の一部で、ユーザ以外でも、特にソフトバンクのファン層からは、カバー率を公開していなかった事や、一連の障害、エリアの誇大広告問題などを絡めて問題視する声も多いが、KDDIとしては、現行iPhone5の下取りも検討しており、様々な問題への対処を進めている。
遅くとも秋には発売されるであろう次期iPhoneでは、LTEのコアバンドとなる800MHzにも対応すると噂されており、それ以降の下取りを含む買い換えユーザ・新規購入ユーザにとっては、満足度の高いLTEネットワークが提供されることが想定される。
詳細については、別途、AppComingで実施した都内でのフィールドテスト結果を交えて解説する。
以上、記者会見の全体についてレポートしたが、今回の会見を通して感じた事は、障害発生が、KDDIを大きく改革・改善する為に、良いきっかけとなったのかもしれないということだ。
LTEの立ち上げ時期であり、マルチバンドLTE対応端末はこれから整うという過渡期ということで、厳しい状況での構築・運用をしていた事が推察されるが、障害が発生しなければ、騙しだましの構築・運用となり、LTEユーザ増加に伴う劣化が著しくなることが懸念されていたかもしれない。今回の障害頻発による対策は、より高いレベルのLTEネットワークに短期間に進化するはずだ。
つまり、現状の3倍というオーバーキャパシティとも思える短期間での設備投資を決定し、通常は実施しないような利用者への返金措置というユーザ志向を示し、部門をまたがる横断的な「LTE基盤強化対策本部」の設置による組織改善への取り組みが具体化され、2.1GHz帯LTEの実人口カバー率の開示するなど、未来の変革に繋がるような変化が既にスタートしていると感じられた。
田中社長が自ら陣頭指揮を取ってという言葉も、以前よりもリアリティを感じる事ができた。
残る懸念は「人」「組織(または組織の体質)」のみ。
この2点にフォーカスした具体的な施策を現時点で公表されているレベル以上に実施すべきではないだろうか?
過去にも実施しているかもしれないが、第三者による監査・アドバイスなどを積極的に取り入れ、内部にいると気づかない、あるいは気づいても放置されるような課題を見出し、それこそ抜本的な改革に取り組み、それを社内外に明示することで、一連の障害への経営責任をリーダーシップをもって果たして行くことを期待したい。
また、直近数年の業績向上・加入者数の増加に慢心することなく、KDDIグループ全体が1つとなって、シッカリとした改革を進めて欲しい。
- 【特集】KDDIのLTEネットワークは大丈夫なのか?
【1】LTE通信障害の原因と対策に関する記者会見(後編)
http://app-coming.jp/485.html
【2】LTE通信障害の原因と対策に関する記者会見(後編)
http://app-coming.jp/486.html
【3】障害は頻発したが、LTE通信品質が高いKDDI
http://app-coming.jp/487.html
- 【特集】KDDIの大規模な年末年始の障害における根本原因と対策
前編 http://app-coming.jp/367.html
後編1 http://app-coming.jp/368.html
後編2 http://app-coming.jp/369.html